人呼んでフーテンの寅と発します

「講談から学ぶ江戸しぐさ」という講座を受講。講師は講談師の宝井琴柑さん。お若くて可愛らしい感じだけど、しっかりと丁寧な説明で聞きやすかった。

まずは江戸しぐさのいくつかを時代背景とともに紹介。「傘かしげ」「肩引き」「こぶし腰浮かせ」などなど。江戸しぐさは商人の間で、商人対商人、商人対お客さん、いろんな場面でお互いが気持ちよく暮らせるコツとして生まれたんだそう。

歌舞伎や人形浄瑠璃など町人から生まれた文化がたくさんあるという話しも。江戸の街の町人たちはとてもパワフルだったのね〜。江戸の町人たちは「人間一生、物見遊山」と言って、『生まれてきたのは、この世をあちこち寄り道しながら見物するため。いろんな物を見て、見聞を広めて友だちを増やし、死んでいけばいい』と考えていて、物ではなく楽しい時間に価値を置いていた。だから、歌舞伎や相撲を見物したり、吉原や向島に行ったり、よく遊んだんだそう。さぞかし活気にあふれていたんだろうなあ。

おっと、江戸しぐさの話に戻して。最後は「人と接するときには、一呼吸おいて相手を思いやることで、お互い嫌な思いをせず、気持ちよく過ごせるんじゃないでしょうか」とまとめてらっしゃった。

つぎに体験「啖呵を切る」のコーナー。私の思っていたのと違った。「てやんでえ!べらんめえ!」ではなかった。香具師(やし)が品物を売る時の口上(バナナの叩き売りとか)も啖呵というんですね。

ということで、フーテンの寅さんの口上をみなさんで読み上げてきた。

「私、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。」から始まって、「焼けのやんぱち、日焼けのなすび、色が黒くて食いつきたいが、あたしゃ入れ歯で歯が立たないヨときた。」と続く。

まさか「名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します」なんてやると思っていなかったから、ツボにハマってしまってだいぶん楽しい気持ちになってしまった。私はその気になって思い切り言いたかったのだけど、やはり周りの方々に合わせて、控え目に囁くようにしか言えず。でも、参加者のみなさん「四百、三百、百両だ。どうだ!」の「どうだ!」のとこは結構気合い入ってて、ほんとはもっと思い切ってやってみたいって思ってるのよねと思った。絶対家でやってみてると思う。

最後は講談を一席。演題は「夫婦餅」。両国で玉川屋を営む夫婦。相撲道楽の旦那のせいで店もつぶれてスッカラカンになった。元芸者の妻が以前出ていた郭の旦那が、その状況を見かねて、新たに店を出す軍資金をくれた。なのに、玉川屋の旦那、巡業帰りの相撲取りたちとバッタリ出会い、祝儀にと軍資金をあげてしまう。事情を聞いた郭の旦那が、祝儀を返してくれるよう横綱に頼むが「一度受け取ったものはわしのもんじゃ」と返してくれない。事情を話しても返してくれないなんて、「金の切れ目が縁の切れ目かい」と嘆く。見返してやれとまた軍資金をもらって、餅屋を華々しく開店。そうしたら!横綱たちが開店を祝うべく大盛り上がりでやってくる。「何しにきやがった!」「いや、だんなさま、聞いてください。いただいた祝儀をそのまま返してしまえば、だんなさまのメンツが立たない。苦しかったけど返さなかったんです。これは、開店のお祝いです」と祝儀にもらった五十両を渡した。で、餅屋は大変繁盛しました。というお話。

相手への思いやりがしみる人情噺でございました。そうそう、私はこれが初講談だったのですが、張り扇でタン!と釈台をたたくのが小気味よく、餅屋の開店を祝うべく横綱たちがやってくるシーンは、とても賑やか華やかで、私の気分も大いに盛り上がった。

この講座にもんさんもいらしていたので、帰りに落語談議を少々。興味深かったのは、お客さんが「おもしろかった!楽しかった!」って思うのは、その場が楽しい空気になっていたかということだなあという話し。いい空気が出来ていると、落語自体は噛んだりトチッたりしても全く気になりませんね、と。

「ああ、分かります!やっぱりあの楽しい空気を味わいたくて寄席に行きたいって思いますもん!」という話の流れで、「そんなわけで、もんさんからお借りしている志ん朝DVDボックスの返却が遅れているんですー。」と思わずお伝えできて、私はちょっと安心した。そうなんですよねー。一人で家で落語見てても、冷静に見て終わっちゃうんですよね。やっぱり寄席でたくさんのお客さんと一緒に見るのがいい!

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